林檎のワイン | ANNEX・千夜一酒館

林檎のワイン

 今宵味わっているのは、「五枚橋ワイナリー」の林檎ワインである。「五枚橋ワイナリー」は盛岡市の郊外に葡萄畑を持つ、日本最小のワイン製造業者。
 「要冷蔵」とのことでものものしく銀色の保冷袋に入れられたそれは、栓を開けるとかぐわしい林檎の香り。口に入れれば、その香りはダイレクトに伝わってくる。林檎をかじっただけでは味わえない、その馥郁たる香りと芳醇な酸味…。林檎ジュースのような甘ったるさはなく、まさに「大人の味」だ。(なお発泡はしていないので「シードル」ではなくあくまで「林檎ワイン」だそうだ)

 店主はオーストリアでワイン醸造を学び、その後岩手の有名ワイン会社に勤務。自らのワインづくりの夢を追って、2年前に脱サラし独立。盛岡市の郊外で葡萄の栽培を開始したとか。
 が、葡萄は一から育てているため、成長するまでは3~5年ほどかかるそうで、ワイン醸造に着手するまでは、先述の林檎ワインの製造・販売と、オーストリアの輸入ワイン販売、さらにレストランを手がけているとのこと。
 人づてに聞けば、やはりもっとも力を入れるべき目玉の(葡萄)ワインが存在しないことから、経営も芳しくないとのことであるが、それはそれ。夢追い人は苦い水を飲んだ末に、甘い水を勝ち取るものである。

 そんな夢追い人の汗まで染みこんだような林檎ワイン。所詮、葡萄ワインができるまでの代用品…なんて軽々しく言うべきではない。その情熱はこの林檎のワインの味からもしっかり伝わってくるのだから。